ヨークシン幻影旅団編を解説(岡田斗司夫 切り抜き)

岡田斗司夫氏が
『HUNTER×HUNTER』
屈指の人気エピソードである
「ヨークシンシティ編」
(幻影旅団編)
について、
物語の構造、
キャラクターの役割、
そして冨樫義博先生の
特異な演出・脚本術という視点から
鋭く深掘りして解説している動画です。

1. ヨークシン編の概要とマフィアの扱い

物語の対比構造

このシリーズでは
「幻影旅団」と
「世界的なマフィアコミュニティ」という
2つの悪者グループが登場します。

しかし、
冨樫先生は旅団を
「非道な悪党だが、
身内(家族・仲間)に対しては
異様に優しい集団」
として魅力的に描きました。

愚者としてのマフィア

もしマフィア側にも
同様の仲間思いな描写を入れてしまうと
キャラクターの属性が被る(渋滞する)ため、
マフィア側は徹底的に
「強がりばかり言う
愚かでバカな噛ませ犬集団」
として描写されています。

この描き分けにより、
旅団は実質的に
「もうひとつの主人公グループ」
として
読者に提示されることになりました。

クラピカの哀愁

マフィア組織(ノストラードファミリー)を利用して
這い上がったクラピカですが、
結果として
ボスの娘の能力喪失や
ボスの精神崩壊の面倒を見る羽目になり、
いつの間にか
「マフィアの有能な番頭さん(管理職)」
のようになっていく
哀愁が語られています。

2. 冨樫脚本の真骨頂:テーゼ・アンチテーゼ・ジンテーゼ

ゴンが旅団に囚われた際、
仲間(ウボォーギン)の死を
涙ながらに悼むノブナガに対し、
ゴンが
「(仲間を想う)その優しさを、
なぜお前たちが殺した人たちに
少しでも分けてやれなかったんだ」
と激昂する
名シーンについての解説です。

岡田氏はこれを
弁証法(哲学の思考プロセス)になぞらえて
大絶賛しています。

テーゼ(常識・正論)

幻影旅団は
冷酷非道な悪の集団である。

アンチテーゼ(逆説・ものすごい回答)

しかし、
彼らは誰よりも熱く仲間を想い、
身内の死に涙を流す人間味がある。
(じゃあ彼らは良い奴なのか、悪い奴なのか?という葛藤)

ジンテーゼ(それを遥かに超える超回答)

ゴンが
「だったら何でそれを他人に向けられないんだ」
と矛盾を突きつける。

少年漫画の王道を超えた
この3段階の感情のぶつけ方・見せ方こそが、
冨樫先生の漫画家としての
恐るべき真骨頂です。

3. クロロの「ユダ」の解釈と旅団の本質

ウボォーギンが
旅団内の裏切り者(ユダ)を警戒した際、
団長クロロが放った
「俺たちのなかにユダ(裏切り者)はいない」
というセリフの心理分析です。

キリスト教における
ユダの解釈の1つとして、
「ユダはキリストを裏切ったのではなく、
キリストが本物の救世主
(神の子)であることを
奇跡によって
周囲に証明したくて、
あえてローマ軍に売るという
過激な試し行動をした」
(=誰よりもキリストの力を信じていた)
という説を提示。

クロロはヒソカが裏で不穏に動いている
(裏切り者である)ことを察知しつつも、
ヒソカの目的が
「団長(俺)と全力で戦うこと」
であると見抜いていました。

旅団のルール
(欲しいもののために何でもする、
強さに躊躇しない)
に照らし合わせれば、
ヒソカの行動は
旅団員として極めて純粋であり、
「こんなくだらない裏切りをする奴はいない
=ヒソカを殺戮集団の立派なメンバーとして認めている」
という
クロロの独自の
倫理観・鉄の掟の面白さが語られています。

4. 幻影旅団=「株式会社」の論理

旅団には
「頭(団長)の命令は絶対だが、
頭の命は絶対ではない。
頭が死んでも蜘蛛(組織)が存続すればいい」
という
冷徹なルール(蜘蛛の理念)があります。

岡田氏はこれを
「現代の株式会社の論理」
そのものであると指摘。

社長の命よりも
「会社の存続と利益の追求」
が最優先され、
社長が倒れても
別の人間が後を継いで
システムが回り続ける構造と同じです。

悪の超能力集団を描いているようで、
その実、
現代組織の倫理や
冷徹な論理を巧みに組み込んでいる点が、
大人の読者をも惹きつける理由です。

また、
ウボォーギンの死を
占いで知ったクロロが思わず涙を流し、
「死後の世界を信じるか」
と問いかけるシーンにより、
冷徹なシステム(会社)を統べる男の
「内なる人間臭さ」を
1コマの涙で表現する
冨樫演出の巧みさも評価しています。

5. 集団における「ツンデレの階層構造」とキャラ変遷

読者に
本来悪党である旅団を好きにならせるため、
組織の中に
「心を開くスピードの階層」が
綿密に設計されているという
キャラクターメイキングの講釈です。

初期から心を開く(好意的)

ノブナガ
(早い段階でゴンたちを気に入りスカウトする)

徐々に心を開く

パクノダ
(ゴンたちと時間を共にし、
最期は彼らの無垢さに絆されて命を賭す)

最後まで心を開かない(感情がない)

クロロ、フェイタン、マチ、シズクなど。

このバランスにより、
ゴンとキルア(=読者)の目線を通じて、
最初は恐怖の対象だった旅団への印象が
グラデーションのように変化し、
シリーズの終わりには
フィンクスが後ろ姿で感謝を告げるような
「妙な愛着(成仏)」
を感じさせる仕組みになっています。

6. HUNTER×HUNTERの掟:「全力で戦うとキャラクターが消費される」

謎の喪失

本作において
「手の内(全力)を
完全にさらけ出して
ガチバトルをしたキャラクター」は、
その時点でキャラとしての
底(謎)が見えてしまい、
物語上の役割を
消費・失ってしまうという独自の法則を提示。

解説役へのシフト

クラピカはウボォーギン戦で
全力(絶対時間など)を見せてしまったため、
それ以降のシリーズでは
バトルの前線から引かされ、
影のあるセリフを言う
「有能な解説役」
(野球の引退選手のような立ち位置)
にシフトせざるを得なくなったと分析しています。

そのため、
ゴンとキルア(修行で変化する枠)以外の主要キャラは、
トンチやドッチボール、
心理戦などを用いて、
極力「本当の全力を出すガチの殺し合い」を
意図的に回避し続ける
脚本の工夫がなされている、
と語られています。

【総括】

少年漫画の王道
「悪者の討伐」を扱いながら、
旅団の人間味、
近代組織の論理、
主人公の鋭いジンテーゼのぶつけ方を
凝縮したヨークシン編は、
冨樫先生の天才的な作家性が
大爆発した
最高傑作のエピソードであるという解説です。

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